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人工芝の歴史:第1世代から第3世代までの歴史を探る!

人工芝の歴史(第1世代から第3世代まで)

前回は、教育現場やスポーツの環境整備、特に園庭やグラウンドの天然芝生化についての現状をお伝えしました。天然芝はメリットも多くある一方で、農薬による健康被害や維持管理の方法が課題となっており、普及の足かせになっていました。その課題を解決するために開発されたのが人工芝です。今回はその人工芝の現状をお話していきます。

人工芝にも世代があった!第1世代の誕生は1966年!

みなさんは「人工芝」と聞いてどのようなイメージするでしょうか?ホームセンターに売っているような人工芝をイメージする人もいれば、ゴムチップが充填されている人工芝をイメージする人もいるかもしれません。人工芝は一般的にポリエチレン・ウレタンなどの合成樹脂を芝生に似せて作ったものです。また、スポーツで使用される人工芝は、衝撃吸収の観点から芝丈を長くしており、ロングパイル人工芝(第3世代:後述)と呼ばれたりしています。人工芝は維持管理も簡単で、使用制限も全く必要としない天然芝の課題をクリアした画期的な発明となり、特に芝生の育ちにくい寒冷地で重宝されています。
そんな人工芝が世の中に登場したのは、なんと今から55年以上前の1966年です。アメリカ、ヒューストンのアストロドームで初めて敷設され、その後、アメリカで野球場やアメリカンフットボール場、パブリックスペース用やエクステリア用へと広まっていきました。1976年に日本初の人工芝球場として後楽園球場が誕生したことがきっかけで日本でも人工芝が認知され始めたと言われています。この時の人工芝を学術的に言うと「(人工芝)第1世代」と呼びます。しかし、この第1世代は芝丈が短く緩衝性に問題がありました。緩衝性をあげるためにアンダーパットを敷いてはいましたが、地面がとても固かったんです。スポーツでは、それが顕著に現れ、競技に関わらず腰やヒザ、足首などに不安を抱える選手も出てきました。また、野球では打ち取ったはずの打球が異常にバウンドし、「人工芝ヒット」なんて呼ばれる現象が起きることもありました。

人工芝も進化して第2、第3世代へ!それでも…


第1世代の課題を解決するため、第1世代の人工芝に砂を蒔き、緩衝性を高める方法がとられました。それが「第2世代」です。さらに、人工芝の芝丈を伸ばし充填剤にゴムチップを使用して緩衝性を高めたのが「第3世代」でロングパイル人工芝と呼ばれるものです。現在はこの第3世代が主流になっています。この充填剤は一定数の緩衝効果があり、科学的にも立証されています。しかし、スポーツでは、逆にグリップが利きすぎて関節に負担がかかる等と、まだまだ選手の不安はぬぐい切れません。
さらに、夏になると人工芝の表面温度は50度~60度、場合によっては70度近くなる問題もあります。それによる足の甲や裏の低温やけど、スライディングによるや火傷などが発生しています。第3世代の人工芝は選手がやりたいプレーを制限しているのが問題です。また、ゴムチップには様々な化学物質が含まれています。競技中に巻き上げられたゴムチップが皮膚に着いたり、口に入ったりすることで、ゴムチップに含まれる化学物質が原因で健康リスクにつながる可能性があります。しかし、これについては厚生労働省の報告書の中で「健康リスクの上昇はない」と結論が出ました。それでも化学物質が含まれるって話を聞いてしまうと何かイヤじゃないですか?特に小さなお子さんをお持ちの方はどうでしょう?ゴムチップに含まれる化学物質は溶けると気体になります。そして、呼吸を通して体内へ吸収されます。もし、成長期の子どもたちの遊び場でそんなことが起きていたら?特に子どもは大人よりも背が低く、地面からの距離が近いため、吸い込む量が多くなります。しかし、近年の異常な暑さだと十分に考えうる話です。実際、私の勤めている大学の学生は、溶けたゴムチップがサッカースパイクに付着したと話していました。また、ゴムチップは雨などで流され、環境汚染へとつながるという問題も指摘されています。2023年9月にはEU(ヨーロッパ連合)が環境問題の観点からマイクロプラスチック添加製品を原則販売禁止にしました。このマイクロプラスチック添加製品は主に人工芝の充填剤に使用されているものです。これにより、今後は第3世代の人工芝に大きな制限がかかる時代になりそうです。そのため、各種メーカーはトウモロコシの殻とコルクをブレンドした充填剤、天然ヤシ素材の充填剤といった自然由来の充填剤を開発するなどの工夫を凝らしています。

これからの人工芝、みんなが過ごしやすい環境づくりに向けて

このように人工芝は時代と共に改良され、天然芝にはない恩恵を私達に与える一方で、人体への影響、選手への負担軽減、環境問題に対してまだまだ改良の余地がある段階です。次回は、人工芝を学術的な視点を踏まえてお話したいと思います。現在、人工芝を対象にどのような研究が行われているのかを紹介し、みなさんへ人工芝の最新の知見を提供できれば幸いです。

大城 卓也(おおしろ たくや)
1992年4月13日沖縄県出身。聖カタリナ大学准教授(健康スポーツ学科)。
8歳で野球を始め沖縄尚学高校、順天堂大学へ進学。大学では保健体育教員免許を取得。硬式野球部に所属し4年次に監督としてリーグ優勝。大学院ではスポーツ組織・マネジメントの領域から人工芝の抱える課題に着目。
2018年聖カタリナ大学に着任しスポーツビジネスやマーケティングの講義を担当。硬式野球部の創部に携わり、1年で四国地区1部リーグ昇格に貢献。オールスター戦コーチにも選出。現在、地域の高校野球部での指導や研究活動を通じ、地域還元に尽力している。

参考文献

1)飯島健太郎(2013):「グラウンドサーフェスによるスポーツ障害と人工芝・天然芝」,芝草研究,42,1,pp1-8.
2)五十嵐良明ら(2019):「人工芝グラウンド用ゴムチップの成分分析及びその発がん性等に関する研究」,厚生労働科学特別研究事業.

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