前回は「緑化」という観点から緑色が人に与える影響について紹介しました。緑化は、人にポジティブな影響を与えており、特に心理面に良い影響を与えていました。もちろん、子どもも人間なので、同様の影響を受けているでしょう。それに加えて、今回は、緑化についての調査対象が子どもの研究を2つ紹介したいと思います。教育に携わる人の新たな学びの一助になれば幸いです。
子どもを対象にした「緑化」の研究

紹介したいのは緑化が子どもの心理面に与える影響についての研究です。「こんな研究あるんだ!」ととても驚きました。多くの人がいろいろな分野で子どもたちの環境を良くしようと日々、研究していることがわかりました。
まず紹介するのは、「自閉症スペクトラムの子どもは黄色が苦手で緑色を好む傾向を確認-発達障害による特異な色彩感覚-1)」という研究です。これは、自閉症スペクトラム障害(以下ASD)を抱える子どもは、緑色を好み、黄色が苦手傾向にあることを明らかにした研究です。近年、ASDを抱える子どもが増加傾向にあります2)。ASD児は、普通に話しかけられても「怒られている」と感じるなど、周囲の情報に対して知覚過敏となり、パニックを起こしてしまったり、苦痛を感じたりしている可能性があります。この研究結果から、ASD児たちがネガティブな思いをしないように、色彩にもこだわった生活環境づくりができるかもしれません。
次に紹介するのは、「Nature and Neurodevelopment: Differences in Brain Volume by Residential Exposure to Greenness(自然と神経発育:住まいの周りの緑にふれあうことで脳の容積に違いが出る)」3)という研究です。この研究は、子どもは緑にさらされることにより脳の容積が増加し、その領域が認知機能の領域とも重なっていることを明らかにしました。この研究の最後には、子ども時代を比較的緑の少ない都会より、田舎や里山で過ごす方が脳の発育を高める可能性があるのではないかと述べていました。
紹介した2つの研究は私にとって新しい学びとなりました。ASD児は人に誤解されたり、気持ちを抑えられない自分自身に対して苛立ちを覚えたり、毎日、様々な思いをしていると思います。しかし、色彩によって彼らのストレスを軽減させることができるというのは、教育現場において非常に有用な知見になりうるでしょう。また、周りに緑がある子どもたちは、脳の容積が増加するというのも驚きです。「自然の中で子どもを育てたい」と言って地方へ移住する家族もいます。その選択はあながち間違っていないのかもしれません。
人類の発育発達は長い年月をかけて自然に適応してきた

我々人類は哺乳類として約2億年前に誕生し、長い年月をかけて自然に適応してきました。しかし、近代化により環境が大きく変化しました。その結果、発達障害と呼ばれるような課題も出てきました4)。まず2億年かけて自然へ適応してきた身体が、たった100年で変わるはずがありません。人類の発育発達は現在の環境に追いついていないんです。もちろん、近代化を否定するつもりはありませんが、我々は今一度、自然の中で育っていくことを考えてみても良いのではないでしょうか。
次回は、緑化された場所で遊ぶ子どもたちは身体的にどのような能力が高まるのかを明らかにした研究を紹介します。ポジティブな研究結果が非常に多いので、これも教育関係者の皆様にはご一読いただきたいです。
大城 卓也(おおしろ たくや)
1992年4月13日沖縄県出身。聖カタリナ大学准教授(健康スポーツ学科)。
8歳で野球を始め沖縄尚学高校、順天堂大学へ進学。大学では保健体育教員免許を取得。硬式野球部に所属し4年次に監督としてリーグ優勝。大学院ではスポーツ組織・マネジメントの領域から人工芝の抱える課題に着目。
2018年聖カタリナ大学に着任しスポーツビジネスやマーケティングの講義を担当。硬式野球部の創部に携わり、1年で四国地区1部リーグ昇格に貢献。オールスター戦コーチにも選出。現在、地域の高校野球部での指導や研究活動を通じ、地域還元に尽力している。
参考文献
1)Marine Grandgeorge, Nobuo Masataka(2016):「Atypical Color Preference in Children with Autism Spectrum Disorder」, Frontiers in Psychology.
2)Daimei Sasayama ,Rie Kuge ,et al(2021):「Trends in Autism Spectrum Disorder Diagnoses in Japan, 2009 to 2019」,JAMA Network Open.
3)Wendee Nicole(2018):「Nature and Neurodevelopment: Differences in Brain Volume by Residential Exposure to Greenness」, Environmental Health Perspectives,126,6,2018.
4)石川憲彦(2011):「今なぜ発達障害か?」,相談室だより,71,日本教育会館.
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